幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「近々って、具体的にいつ?」
「ハッキリとはわからん。章のことだから、気が向いた時にフラッと帰ってくるんじゃないか?」
父の言葉通り、兄の章はかなり掴みどころのない人物だ。周囲に流されることなく自分の道を行き、その態度はいつも飄々としている。
俺が〝クールな大人の男〟を目指しているのも、実は兄の存在にかなり影響されている。
あれは、高校の卒業を控えた頃。かなり昔の話ではあるが、美葉が友達に、理想の男性像は兄のような人だと話すのを盗み聞きしてしまったことがあるのだ。
それに対し、俺のことは〝弟のような存在〟だと。
……ショックだった。しかし、だからといって美葉をあきらめるという選択肢は俺の中にない。
努力してクールな男に変身し、自分に自信が持てるようになったら美葉を迎えに行こうと、その時心に決めたのだ。
そして今、ようやく彼女に相応しい男になれたという実感があるからこそ、婚姻届を渡したのだが……兄が目の前に現れると知り、気が気ではない。
俺が必死で身に着けたクールな所作も、所詮は兄の二番煎じ。いくら大人ぶっても美葉と同級生の俺が三歳年上の兄に敵うはずないのではないかと、自信が揺らぐ。
兄が帰ってくるより先に、なんとしても婚姻届に美葉のサインをもらわなければ。