幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
そのまま自分の席でパンと野菜ジュースの軽い食事を済ませると、早々に休憩を切り上げてパソコンのキーボードを叩く。
午前中の回診をもとに、新たに手術の決まった患者さんの麻酔計画を立てているのだ。
術前から術後の呼吸や循環機能、体温、疼痛の管理などをまとめたマニュアルのようなものだ。
性別や生活習慣、手術にかかる時間などによっては麻酔の副作用が現れる場合もあるので、その予防方法、万が一副作用が現れた場合に投与する薬剤なども決めておく。
「……えっ? 洸先生と雪村先生が結婚?」
「ああ。ふたりともオトナ~って感じでお似合いだよな」
作成した文書を読み返していたら、ふいにそんな話し声が聞こえてきた。
キーボードを打つ手をぴたりと止め、声のした方に視線を向ける。
『お似合いだよな』と言ったのは、麻酔科の専攻医・竜崎先生。
まだまだ経験を積んでいる最中の二十代だけれど、飲み込みの早い今どきの若者。失敗があってもきちんと次に生かせるタイプなので、この先伸びる人材だろうと勝手に期待している。
そして彼と話しているのは、手術で一緒になったこともあるオペナースの小森さんだった。洸がこの病院で初めて執刀した僧帽弁の手術の時にも、彼女は外回りを担当していた。