幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

 洸が顔を近づけてきて、一緒にスマホを覗き込む。彼が愛用するシャンプーの香りにはもう慣れたはずだし、涼しげなその横顔も見慣れているはずなのに、やけにどぎまぎしてしまう。

 これくらいの距離に接近されるのだって、初めてじゃないのに……。

「美葉?」

 呼びかけられて、ハッとする。

 私がぼうっとしていたからか、洸が不思議そうに首を傾げて私を見つめていた。

「あ……はは、ごめん。目、開けたまま寝てたかも」

 どうにか気楽な空気を取り戻したくて、とぼけた演技をする。洸が『なんだそれ』とあきれたように笑ってくれれば、きっといつもの……幼なじみの私たちに戻れると信じて。

「コーヒー効かないほど疲れてるんなら、今日はもう寝たほうがいいかもな」

 そう言って優しげに笑った洸が、大きな手を私の頭にポンと置く。その瞬間、火がついたように頬が熱くなる感覚がして、パッと俯いた。

「そ、そうさせてもらおうかな……」
「ああ。カップは俺が後で洗っとくからそのままでいいよ。おやすみ」
「ありがとう。おやすみ」

 洸の目を見ないようにして、逃げるようにリビングを後にする。歯を磨くために洗面所に入って鏡を見ると、自分の想像以上に頬が真っ赤だった。

 相手は幼なじみの洸なのに、なんで今さら接近したくらいで動揺しちゃうんだろう……。

 心の中で問いかけても答えは見つからず、悶々とした気持ちを持て余したまま、その日は床に就いた。

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