幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

「……冷たっ」

 わかりきっていることなのに、つい美葉と目を合わせて呟いた。

「ねっ。もう五月なのに思ってたより冷たいよね」
「ああ。空気もいいし、森の匂いもして……気持ちいい」

 その場で伸びをして、綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込む。目を閉じると、川が流れる音に交じって、かわいらしい野鳥の鳴き声も聞こえた。

「なんか、洸がそうやってリラックスしてる顔見るの久々かも」
「そうか? 家でもしてると思うけど」
「うーん。うまく言えないんだけど、ちょっと違うんだよね。家にいると、どうしても病院からの呼び出しを気にしちゃうからかな?」

 心臓血管外科が扱う疾患には緊急手術が必要なものが多い。当直やオンコール担当の医師がきちんと決まっているとはいえ、一度に複数の患者が運ばれてきたりすると、イレギュラーに呼び出されたりすることもある。

 とはいえ、そういう勤務形態には大学病院の頃から慣れているし、今さら美葉に指摘されるほど緊張しているはずはないのだが……。

< 79 / 204 >

この作品をシェア

pagetop