幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
麻酔科医はあらゆる診療科のオペに携わるので、多忙かつ勤務時間が不規則になることも多い。
だから実家暮らしはある意味楽で、生活費こそ入れているものの、家事に関してはお手伝い程度しかできていないのが現状だ。料理は大の苦手だし。
……って、もしかして私、自らこの間の話を蒸し返すような話題を振ってる?
「あ、あのさ。そういえばさっき私のこと雪村先生って呼んだ?」
慌てて話の矛先を変えてみる。洸はとくに気にした様子もなく、真顔で頷く。
「これから同僚になるんだから、美葉じゃおかしいだろ」
私の記憶が正しければ、洸は高校時代の途中まで私を『みよちゃん』と呼んでいた。しかし、三年生のある時期から唐突に呼び捨てになった。彼が現在のようにクールな性格になったのも同時期だ。
どちらにしろ名字で呼ばれたことは一度もなかったから、他人行儀に先生だなんて言われる方がむしろくすぐったい。
「慣れないけど、確かにそうだよね。洸の方は高比良院長もいるし『洸先生』とか?」
「別になんでもいい」
そっけなく言いつつも、洸はほんの少し照れくさそうだ。
こういう時、弟のように私の後ろに隠れていた昔の洸を思い出して懐かしくなる。本人が嫌がるかもしれないから、口には出さないけれど。