幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「洸先生……腸管の摘出手術、失敗です」
「なんでこんなに簡単なオペを失敗するんだ、雪村先生」
右手に竹串を持っている美葉が、がくっとうなだれる。彼女の前に置かれたステンレスのトレーでは、原形のなくなった海老が一尾、無残な姿で解体されている。
今俺たちがいるのはオペ室――ではなく、部屋の中に備え付けられた、キッチンである。
美葉が苦手なものとは、ずばり料理。海老の殻剥きと背ワタを取るくらいならできると思ったが、どうやら俺の考えが甘かったらしい。
少しでも苦手意識を取り除くため、オペ風に作業を進めようと言い出したのは美葉だが、あまり効果はなかったようだ。
「すみません……。私、麻酔が専門なもので」
「バーベキューに麻酔担当はいらないな」
「野菜の切断ならできるかもです! やらせてください!」
「……手を切るなよ」
俺は隣で牛肉に塩コショウを振りながら、危なっかしい美葉を見守る。真剣な顔で丸ごとの玉ねぎに包丁をあてた彼女は、端からゆっくりと輪切りにしていく。
どうやら、この作業は大丈夫そうだ。
下ごしらえの済んだ肉にラップをかけ、次は美葉がやり残したままの海老の処理に移ろうかと、背後にある冷蔵庫の方を向いた瞬間だった。