幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「痛った……。やっちゃった、指」
「えっ? 見せてみろ」
すぐさま彼女のもとへ戻り、彼女の左手をガシッと掴んで指先を観察する。
切れているのは親指の横のあたりだ。玉ねぎを押さえる時、きちんと親指を隠す『猫の手』にしなかったのだろう。そこまで深い切り傷ではないのが幸いだ。
彼女の手を掴んだままシンクの方へ移動し、傷口を流水で洗う。
「ごめんねドジで……。施設の人に聞いてみれば絆創膏くらいもらえるかな」
「簡単な救急セットなら俺が持ってる。ちょっと待ってて」
一旦美葉のそばを離れ、ベッドの脇に置いた自分のリュックから、大きめのポーチを取り出す。
中にはガーゼや包帯、それらを留めるテープなどのほか、はさみやピンセット、絆創膏、使い捨ての手袋などが入っている。外出の際にいつも持ち歩いている応急セットだ。
美葉の場合は軽い傷なので、ガーゼで止血した後絆創膏を貼ってしまえばいいだろう。
ふたりでソファに移動し簡単な手当てを済ませると、美葉は俺が巻いた絆創膏を眺め、ふっと笑った。
「ありがとう。昔の洸は血を見るのも苦手だったのにね」
「いつの話だよ。だいたい、今は医者だぞ」
「そうなんだけど、子どもの頃はちょっと擦りむいただけでも大泣きしてたから」