幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
穏やかに話す美葉は、おそらくただ昔を懐かしんでいるだけ。今の俺はそんな頼りない男ではないと彼女だってわかってくれているはずだ。
しかし、魚のつかみ取りができなくて泣いていた俺も、ちょっと擦りむいただけで大泣きしていた俺も、美葉の記憶から完全に消し去ることはできない。
そう思うと、じれったいような気持になる。
「でも、そんな洸がそばにいたから、私は麻酔科医になろうって決めたんだよ」
「えっ?」
……初めて聞く話だ。思わず俯いていた顔を上げ、彼女を見つめる。。
「一番仲良しの洸も、それに章くんも医者を目指していたし、うちの親も望んでいたから、医者になろうっていうのは小さな頃から漠然と思ってたんだけどね」
医者になろうと思った動機が、俺とまったく一緒だ。俺も、親の期待と兄の存在がベースにあり、さらに美葉と別の進路を選ぶという人生は考えられなかったから、自分が医者になることになんの疑いもなかった。
一見自分の意思がまるでないようだが、断じて違う。
心から大切に想う人と同じ夢を追いかけ、将来も彼女のそばにいたい。そんな意思が俺の中で揺らがなかったからこそ、選んだ道だ。今でも一切後悔はない。
「せっかくなるなら、洸みたいな怖がりの人が安心できるお医者さんになりたいと思って、お父さんに色々聞いてみたの。その時に麻酔科医っていう痛みを取り除くプロがいるって教えてもらってね。だったらそれになろうって思ったの。……我ながら単純すぎるけどね」
最後まで話し終えた美葉は、少し恥ずかしそうに笑った。