幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
麻酔科医になったのは、俺のため……。
直接そう言われたわけではないが、似たようなことだろう。初めて知る事実に胸が詰まり、俺は気の利いた言葉が返せなかった。
いつでも凛として頼もしい、ヒーローのようなみよちゃん。
『カッコいい』『ありがとう』『大好き』など、まだ彼女に頼りきりだった頃に山ほど抱いた気持ちがふいに溢れそうになり、思わず瞳が潤む。
しかし、本人に見られるわけにはいかないと、俺はパッと顔を背けて立ち上がる。彼女に背を向けた隙になんとか表情を取り繕うと、極力大人の男らしく微笑んだ。
「それで本当に叶えてしまうのが、美葉らしい。……尊敬するよ」
「ありがとう。そろそろ料理再開しよっか。私のせいで時間ロスしちゃったね」
立ち上がった美葉が意気揚々とキッチンに入ろうとするので、せっかくクールに振舞っていたはずの俺は慌ててその腕を掴み、引き留めた。
料理ができないことも含め美葉のすべてを愛しいと思っている俺だが、これ以上怪我をされたり、食材を無駄にされたりするのはさすがに困る。
「……怪我人は座ってて。簡単なオペだから執刀医だけで十分」
「さすが天才外科医。でも、待ってるのも暇だしなにか手伝いたいよ」
「なにか……そうだな。皿とか箸、あと飲み物の準備をお願いできるか?」
「了解」
美葉に安全な仕事を与えホッとしたところで、ふたりで夕食の準備に勤しむ。
外のデッキでコンロの準備まで整えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。