幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
楽しかったグランピングも終わってみればあっという間だった。
洸との夫婦仲は進展したようなしてないような……という感じだけれど、少なくとも私の気持ちには変化が訪れている。
しかし、自分の気持ちとじっくり向き合っている暇もなく忙しい日常が戻ってきた。
連休明け一発目に担当で入ったオペは、偶然にも洸が執刀医だった。
「メス」
「はい」
洸が皮膚に第一刀を入れる。その迷いのない動きは、本当に、血が苦手だったと彼と同一人物とは思えない。
ちなみに今日は、大動脈を人工血管に置き換える手術。一部の循環は人工心肺に頼るものの、心臓を止めないで行われる。
病変のある大動脈を露出し、血流を遮断する箇所に人工心肺を繋ぎ、体外循環を開始する。
「みよちゃん、ヘパリン投与」
「はい、すぐにやりま……す」
ごく自然に呼びかけられたので私も返事をしたが、手術室の空気が一瞬だけ止まる。
洸以外の手術スタッフの頭上に『みよちゃん……?』と怪訝に思う吹き出しが見えた気がした。