幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

 洸もその異様な空気にはすぐに気づいたようで、ゴホンと咳払いをする。

「……失礼。大動脈を遮断する」

 すぐに何事もなかったかのように手術は再開し、私も目の前の患者の全身管理に集中する。

 しかし、なんとも居心地の悪い空気は引き続き流れ続けていた。


 長時間に及ぶ手術のためにいったん別の麻酔科医と交代し休憩に入る時、オペナースの控室でもある手術部のナースステーションのそばを通ると、嫌な話が聞こえてきた。

「意外~。あのクールな洸先生が『みよちゃん』だなんて」
「しかも、オペ中にうっかり出ちゃうってことは、家ではずっとみよちゃん呼びってことだよね。ギャップ萌えやば~」

 看護師たちも彼らのシフトに従って時間で交代するため、洸があの発言をした時オペ室にいた誰かが、さっそく話を漏らしたに違いない。

 噂をしていた看護師が私の姿に気づくことはなかったけれど、しばらくは酒の肴にされそうだと思うと、思わずため息がこぼれた。

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