幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「雪村先生、来てるよ」
「えっ?」
夕方、麻酔科に残って翌日の手術データを確認していると、八家先生がにやにやしながら私のデスクに近づいてきた。
「洸先生」
八家先生が、立てた親指を出入り口の方へ向ける。そこには彼の言う通り洸が立っていた。
白衣は脱いでおり、私服姿でバッグまで持っているので帰るところなのだろう。私と目が合うと軽く手を上げたが、明らかに気まずそうな顔をしている。
別に入ってきてもいいのに、例の失言をした後だから遠慮しているみたいだ。
「ホントに仲がいいんだねぇきみたち。ほら、早く行ってあげなさい」
「はい……」
昼休みの時点では手術室周辺でしか観測されていなかった例の発言だが、噂は瞬く間に病院中に広がり、八家先生や麻酔科のみんなに『みよちゃ~ん』と何度もからからかわれて散々だったのだ。
仕事を切り上げて帰り支度を済ませると、先生方に挨拶をして洸のもとへ向かう。
今日はさすがに、私もちょっぴり文句を言いたかった。