私の理想の王子様
 朝子は瞳を上げると、目の前の須藤を見つめた。

「怖いんです。ミチルさんを傷つけたように、また人を傷つけることが怖い。騙されたと言われることが怖い。そして、私が朝哉をオープンにすることで、須藤さんや周りを傷つけることが……」

「朝子!」

 朝子の言葉を遮るように、須藤がいつもより強い声を出す。

 朝子ははっとして顔を上げた。


「なんで俺や周りが傷つくことが前提なの? 朝子も朝哉もすべてひっくるめて君なんだ。何も気にする必要はないんだよ」

「え……」

「会社の人たちもそうだよ。朝子の本質を知っている人は、上っ面で騒いでいる人の声なんか耳に入らない。もっと自分に自信をもって、やりたいことはやりたいって声を出していいんだ」

 須藤の言葉が朝子の全身を駆け巡る。

(あぁそうか。私はただ臆病になっていただけなのかも知れない……)

 朝子は顔を上げると、真っすぐに須藤の顔を見つめた。

(いつだって瑛太さんの言葉は、私に勇気をくれるんだ)

 須藤の言うように、自分のやりたいことから目を逸らしたらダメだ。

 自分がやりたいと思ったことを、うまく行かなくなった時の理由になんてしたくない。


「私、新プロジェクトに挑戦したいです」

 朝子のすっきりと通る声に、須藤は大きくうなずくと、朝子を抱き寄せる。

「俺はいつだって朝子の味方だからね」

 何度も優しく頭を撫でられながら、朝子はいつまでも須藤の腕の中でくすくすと笑ったのだ。
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