私の理想の王子様
「朝哉……いえ、朝子さん。突然すみません。すごく迷ったんですが、やっぱり話しておいた方がいい気がして……」

 ミチルは思いつめたように小さくそう言うと、唇を噛んでうつむいた。

「何かあったの……?」

 明らかにミチルの様子がおかしい。

 心配になった朝子が顔を覗き込むと、ミチルはしばらく考え込むように口を閉ざしていたが、心を決めたように息を吐いた。


「あの……須藤さんが、アメリカに行くことはご存じですか?」

 ミチルの言葉に、朝子は「え?」と聞き返す。

「アメリカ……? 出張ってこと?」

 そう言いながらも、朝子の頭にははてなマークが浮かんでいる。

 そんな話は一切聞いていない。

 昨日だって、もうすぐプレスリリースだねと、朝子をメールで励ましてくれたばかりだ。

 自分の仕事に追われて、須藤の話を聞き漏らしてしまったのだろうか?


「やっぱり、聞いてないんですね。アメリカ赴任の話……」

 するとミチルが小さく息をついて、目を閉じる。

 その瞬間、朝子は息を止めると目を見開いた。

「アメリカ赴任……?」

 朝子は顔を上げるとミチルに迫るように前に寄った。

 赴任となれば、出張とは全く別物だ。

 するとしばらくしてミチルが、眉を下げた顔を上げる。
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