私の理想の王子様
「実は今日、須藤さんと同じ会社の方に営業先で偶然会ったんです。それで二か月くらい前に急遽、須藤さんのアメリカ赴任が決まったって話を聞いて」

「嘘……」

 朝子は呻くよう声を出した。

 確かに最近はお互いに忙しく会えない日が続いている。

 それでも毎日何かしら連絡は取り合っているし、お互いのことは話していたつもりだ。


(そんな大事なこと、なんで言ってくれなかったの……!?)

 混乱する頭でそう思いながら、朝子ははっと顔を上げる。

 ちょうど二ヶ月前、須藤に急に会いたいと言われた日のことを思い出したのだ。

 確かにあの日の須藤は、どこかいつもと様子が違っていた。

 レストランを出てからは、いつもより朝子に触れる時間は長かったし、何よりいつまでも離してくれなかった。

 須藤のマンションに向かう途中、いつもだったらキスは部屋に入ってからするのに、あの日は隙あらば須藤に唇を奪われた。

 そして部屋に入った途端、須藤は待ちきれない様子で朝子をベッドに押し倒したのだ。


(あんなに余裕のない須藤さんは初めてだった)

 いつだってにっこりとほほ笑んで、朝子の考えの何歩も先を読んでいる須藤なのに、あの日だけは初めて見る男の顔をしていた気がする。

 そして須藤は、まるで自分自身を刻み込むかのように、何度も朝子を抱いたのだ。
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