私の理想の王子様
「朝子ちゃん、準備はどう? お客様は満席よ!」

 由美が興奮したような声を上げる。

 プレスリリース会場の控室でメイク台に向かっていた朝子は、はっと我に返ると慌てて顔を上げた。

(どうしよう。また瑛太さんのこと、考えちゃってた……)

 朝子はふるふると首を振ると、気を取り直すように目の前の鏡を覗き込む。

 朝子がここに座ってからだいぶ時間が経つのに、鏡に映る顔はまだ一つも王子様になれていない。

 泣きはらした目は赤く、悲し気な朝子の顔があるだけだった。


(ダメだ……。やっぱり私には無理だ……)

 朝子は両手で顔を覆うと、声を殺して泣き出した。

「ちょ、ちょっと、朝子ちゃん!? どうしたの!?」

 目の前の朝子の様子に由美が驚いたように声を上げる。

 その叫び声を聞きつけて、間宮も慌てて部屋に飛び込んできた。

「本当に……ごめんなさい……私にはできません」

 朝子は両手で顔を覆ったまま、震える声でそう言うと、わぁっとメイク台に突っ伏した。


 あの後、ミチルは朝子に一枚のメモ用紙を渡した。

 そこには須藤が搭乗予定の飛行機の便名が書いてあった。

 そのメモ用紙を見た瞬間、朝子は堪えていたものが溢れだすようにその場で崩れ落ちたのだ。

(今日が出発日だなんて、ひどすぎるよ……瑛太さん……)

 朝子はメモ用紙とともにスマートフォンを握り締める。

 ついさっき、須藤からはプレスリリースがんばってねとメッセージが届いたばかりだ。
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