私の理想の王子様
 自分はもうすぐアメリカへ旅立つというのに、そんな素振りは一切見せずに朝子のことだけを応援してくれるというのか。

「ねぇ、朝子ちゃん。何があったの!?」

 動揺する由美と間宮に肩を支えられ、顔を上げた朝子は、何度も大きく呼吸をする。

 しばらくしてようやく息を落ち着かせた朝子は、由美と間宮に事情を説明した。

 二人は朝子の話に言葉を失ったように口を閉ざしていたが、顔を見合わせると大きくうなずく。

 すると由美が、ゆっくりと朝子に向き直った。


「朝子ちゃん。ここからは朝子ちゃんが決めていい。今すぐ彼の元に行きたいなら、それでもいい。どうする?」

 由美の声に、朝子ははっと目を開く。

(今すぐ、瑛太さんの元へ……?)

 朝子は逡巡するように視線を震わせる。

 朝子の本心は今すぐにでもここを飛び出したい気持ちなのは確かだ。

 でもしばらくして、朝子は唇を噛むと、静かに目を閉じる。

(そんなことできない……)

 須藤がなぜ海外赴任の話を朝子に一切伝えなかったのか。

 それは全て朝子のことを考えてのことだ。

(瑛太さんの気持ちを、無駄にしちゃいけない)

 須藤は誰よりも朝子のことを応援してくれている。

 それなのに朝子がここでプレスリリースを投げ出せば、それは須藤の期待を裏切ることになってしまう。

 朝子は両手で涙を拭うと、静かに顔を上げた。


「プレスリリースを投げ出すことはできません」

 朝子の声に、由美は再び間宮と静かにうなずく。
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