私の理想の王子様

二人の旅立ち

 タクシーを降りた朝子は、朝哉の姿のまま、空港のロビーを駆け抜ける。

 ステージからそのままの姿で飛び出してきた朝子の姿は、黒のパンツスーツだがひときわ目立った。

 時折「きゃあ」という黄色い歓声にも似た声を浴びながら、朝子は必死に須藤の姿を探す。


 すると広い空港内をしばらく走り回った朝子は、奥の方で会社の人たちに見送られる須藤の姿を見つけた。

 スーツケースを脇に置き談笑する須藤の姿を見た途端、海外赴任の話は本当なのだと現実を突きつけられたような気がして一瞬足が止まった。

 それでも朝子はぐっと手を握り締めると、再び足を進める。

「あのイケメンって誰!?」

 どこからかそんな声が漏れ聞こえる。

 その声にふと顔を上げた須藤が、驚いたように目を丸くしたのが見えた。


「朝子……」

 須藤はそうつぶやくと、自分の方へと向かって駆けてくる朝子に向かって手を伸ばす。

「瑛太さん……」

 朝子は一気に涙を溢れさせると、そのまま須藤の腕の中へと飛び込んだ。

 「きゃ」という悲鳴にも似た声が辺りから聞こえた気がする。

 それでも朝子は、涙を流しながらしばらく須藤の胸の鼓動をじっと聞いていたのだ。
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