私の理想の王子様
「まさか、朝哉クンが来てくれるなんてね」

 須藤は悪戯っぽくそう言うと、目の前の朝子の頬に手を伸ばす。

 あれから会社の人たちと別れた須藤は、まだ時間があるからと朝子をラウンジスペースに誘った。

 朝子は顔を上げると、再び潤みだした瞳で須藤を見つめる。


「プレスリリースは、無事に終わりました」

 朝子が小さく口を開くと、須藤は嬉しそうににっこりとほほ笑んだ。

「そうか。じゃあここから、いよいよ朝子の新しい挑戦が始まるんだね」

 須藤はそう言うと、再び朝子の頬を愛しそうに撫でる。

 朝子はその手を取ると、ぎゅっと胸に当てた。


「私のためですよね。瑛太さんが、何も言わずに行こうとしたのは」

 朝子の声に、須藤は小さく眉を下げる。

「そうだね。それもあるけど、赴任の話を聞いた時、純粋に俺も挑戦したいって思ったんだよ。きっとそれは、毎日がむしゃらに頑張る朝子を見ていたからだろうね」

「でも! だからって何も言わずに行くなんて、ひどすぎます……」

 朝子は涙を溢れさせた顔を上げる。

 須藤は朝子の頬の涙をそっと拭うと、静かに口元を引き上げた。
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