私の理想の王子様
「須藤さんがアメリカに行っちゃって、少し心配してたんです。でも今日、朝子さんの顔を見て安心しました。須藤さんは向こうでお元気ですか?」

 明るく顔を上げるミチルに、朝子は「えっと……」と目線を泳がせた後、無理やり口元を引き上げた。

「連絡取ってないの……」

「えっ……?」

「お互いに仕事をやり遂げたって思える日まで、連絡は取らないって決めたの」

 朝子の小さな声に、ミチルはくわっと目を開く。

「そんな! 朝子さんはそれで平気なんですか!?」

 声を荒げるミチルに、朝子は自分の心がジクジクと痛みだすのを感じていた。


 須藤と連絡を取らなくなったことは、由美や間宮など社内の皆も知っている。

 智乃などは、今のミチルと同じような反応をしたが、それが自分たちの付き合い方なのだと説明したし、それで良いのだと思っていた。

 でもそれが、朝子の強がりだったという本心は、朝子自身も自覚していなかったのだ。

(あぁ、今までずっと黙ってたけど、やっぱり私は苦しかったんだ……)

 須藤の名前を出されたことで、初めてそのことに気がついた。

 朝子の瞳は次第に潤みだす。でもそれをミチルに悟られてはいけない。

「平気ではないかも知れない。でもこれは、私たちが二人で決めたことだから」

 朝子は最大の強がりの笑顔を見せる。

 ミチルはそれ以降何も言わず帰って行ったのだ。
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