私の理想の王子様
「さすがに疲れたなぁ……」

 今日も朝子はパンパンに張った足を感じながら会社を出る。

 気がつけばもうカレンダーは二月に入り、今日はバレンタインデーを迎えていた。

 二月に入ってからというもの、百貨店の店舗には、朝哉宛にたくさんのチョコレートがプレゼントとして届いている。

 朝子はそれを全て丁寧に紙袋に詰め込むと、大事に抱えて一旦会社まで戻って来たのだ。

 まさかこの歳で、自分がチョコレートを贈る側ではなく、贈られる側になろうとは思いもよらなかった。


 朝子が荷物を置いて会社を出ると、もう時計の針は夜の九時近くを指している。

 重い足取りで駅の階段を上ると、朝子はホームのベンチに一旦腰を下ろした。

 ぼんやりと顔を上げると、朝子の目の前を幸せそうなカップルが肩を寄せ合いながら通りすぎるのが見える。

 彼女からチョコレートをもらったのか、男性の手にはオシャレな小ぶりの紙袋が下げられていた。

 幸せそうに揺れるその袋をしばらく見ていた朝子は、自分の鞄を取り出すと一つの箱を取り出した。


 これは自分で買ったチョコレートだ。今年話題のものなのだと、智乃が雑誌を見せながら教えてくれた。

 本当は須藤がいれば、渡したかった。でも、須藤はここにはいない。

「会いたいなぁ……」

 朝子はぽつりとつぶやく。


 ビーミーシリーズが大ヒットした今、もう須藤に連絡してもいいのではないかと何度も悩んだ。

 でも、時間が経てば経つほど、須藤の番号をタップすることに勇気がいって仕方がないのだ。

 まだ何か足りないんじゃないか、そんな思いが朝子を襲った。
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