私の理想の王子様
 でもドギマギとうつむいた朝子は、自分のジャケット姿が目に入り、慌てて一歩後ろに足を引いた。

(そうだ、今は男装してるんだった……)

 イケメンが電車でチラッと会った朝子の顔を覚えているはずはないだろうし、それが男装している今の朝子と同一人物だとは思わないはず。

 それでもここは、やはり早めに立ち去った方がいいだろう。


「じゃ、じゃあ……お気をつけて」

 朝子がその場を離れようした時、目の前の女性がパッと顔を上げると、朝子のジャケットの裾をぐっと掴んだ。

「待ってください! ぜひ、助けていただいたお礼をさせていただきたいんです」

 女性の声に、朝子は思わず「え?」と声を上げる。

「私、今日開催されるイベントの幹事をしていて……ご迷惑でなければ、お二人をご招待させていただけませんか?」

 女性は必死な様子でそう言うと、うるうるとした瞳で、朝子とイケメンの顔を交互に見つめている。


 どうも話を聞くと、女性は今夜開催される異業種交流会の幹事なのだそうだ。

 会場はここからタクシーで行った先の有名レストランらしく、参加者が待っているからすぐにでも移動したいと言った。
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