私の理想の王子様
 地下鉄を乗り継いで目的の駅へと向かう。

 あの老舗の百貨店の前まで来ると、朝子は一旦大きく息を吸って深呼吸した。


 今日は年に一度の百貨店のイベントの日だ。

 毎年恒例のステージショーも予定されており、ボウ・ボーテは今年もショーに参加する。

 そして今年、ついに朝子がデモンストレーションを行うBAの代表として選出されたのだ。

 実は数か月前、間宮がボウ・ボーテを退職することになり、朝子がBA主任に選ばれた。

 まだ経験も少ない朝子は、自分が主任になることにひどく躊躇っていたが、間宮の強い推薦で決まったのだ。

 朝子がずっと師として仰いできた間宮は、今は舞台メイクの世界に飛び込んでいる。

 ビーミーシリーズの発売以降、男装メイクをする機会が増え、舞台メイクへの情熱がふつふつと湧いていた間宮は、やはり自分は舞台メイクを極めたいと申し出た。

「私が決断できたのは、田野倉さんに男装メイクの楽しさを、再認識させてもらったおかげだからね」

 間宮が何度もそう言っていたのが印象に残っている。


 朝子は従業員用の入り口から中へ入ると、早速ステージショーの準備に取りかかった。

「おはよう、朝子ちゃん」

 すると早々と出勤してきた由美に声をかけられる。

「今日はいよいよ朝子ちゃんの晴れ舞台ね。忙しいけど、がんばってよ!」

 気合いを入れるように朝子の肩をポンポンと力強く叩く由美に、朝子は苦笑いをしながらもガッツポーズを見せた。
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