私の理想の王子様
「俺はこの後予定がないから、参加しても大丈夫だけど。君はどうする? 君みたいな王子様が来たら、女性たちは喜ぶと思うよ」

 イケメンは軽い口調でそう言うと、小さく口元を引き上げている。

「王子様……?」

 朝子はイケメンの顔をじっと伺うように見つめた。

 今の口ぶりからすると、イケメンは目の前の男装メイクをした朝子が、今朝電車で出会った人物とは微塵も思っていなそうだ。


(どうしよう……)

 朝子は頭をフル回転させて考える。

 朝子のジャケット掴んだままの女性は、まさに王子様でも見るような目つきで朝子を見つめている。

(理想の王子様だったら、こういう時、何て言う?)

 女性の期待に応えて、理想の王子様を演じてみたい気持ちはある。

 しばらくして、朝子は心を決めるとにっこりと王子様のような笑顔を女性に向けた。


「じゃあ僕も少しだけ」

 朝子がわざと低く出した声を聞いた途端、女性はパッと顔を明るくさせる。

「ありがとうございます!!」

 朝子は勢いよく立ち上がった女性に腕を引かれながら、イケメンと共にタクシーに乗り込んだのだ。
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