私の理想の王子様
「それに、すごく楽しい。こんな世界があるなんて知らなかった」

 きっとこれは自分が同じ女性の姿だったら得られない高揚感だ。

 男装メイクをして、この場にいるからこそ感じられるものなのだろう。


 するとしばらくして、頬を撫でる秋の夜風を感じていた朝子の耳に、こちらへやって来る誰かの足音が響く。

 はっと顔を上げた朝子の前に姿を現したのは須藤だ。

「こんな場所があったんだ」

 須藤はにっこりとほほ笑むと、テラスの辺りをぐるりと見回した後、朝子の隣にそっと立った。

「女性たちは、君みたいな王子様が好きみたいだね」

 手すりに頬杖をついた須藤は、悪戯っぽい笑顔を朝子の前に覗き込ませる。

 その笑顔にドキッとすると、朝子は慌てて目を逸らすように中庭へと顔を向けた。


「そ、そうですか? 僕はただ、皆の話を聞いていただけです」

 どうもこの人の前に来ると心臓がドギマギとしてしまう。

 すると上ずったような声を出す朝子の前で、須藤は再び楽しそうに笑い声をあげた。
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