私の理想の王子様
「こういう所に来る男性はつい武勇伝を語りがちだけど、女性は自分の話を聞いて欲しいからね。その点君の対応は、理想的だよね」

 須藤はくすりと肩を揺らす。

 須藤の言葉を聞きながら、朝子は(あぁ、そうなのかも知れない)と静かに顔を上げた。


「一人くらい、理想の王子様がいても良いかなって思ったんです」

「どういうこと?」

「恋愛でどうこうなるんじゃなく、漫画の世界にいるような、理想の王子様が現実にいたら、嬉しいだろうなって。だから僕が、みんなの理想の王子様になれたらいいなって思うんです」

 朝子の言葉に、須藤は「ふーん」と感情の読み取れない声を出す。

 この人は何を考えているのだろう。

 普段は軽そうにしているのに、その内面は他の所にあるのではないかとさえ思ってしまう。

 柔らかい笑顔の裏に隠されている須藤の感情は、朝子には見つけられない。


 するとその時、階段の下からミチルの声が聞こえてきて、朝子ははっと我に返った。

「もう、イケメン二人がいなくなっちゃって、大変ですよ! 早く戻って来て下さい!」

 ミチルは階段の下で怒ったように腰に手を当てると、ぷんぷんと頬を膨らませている。

 謝る朝子の隣で、須藤はあははと楽しそうに笑い声を立てた。

「じゃあ、またね。朝哉クン」

 そう言いながら先に会場に戻る須藤の後姿を、朝子はじっと見つめながら階段を下りたのだ。
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