私の理想の王子様

意識の変化

「あれ? 朝子さん、何か良いことでもあったんですかぁ?」

 それからしばらく経った平日の夕方、無意識にフロアで鼻歌まじりにコピーを取っていた朝子は、後ろから声をかけられてドキッとして振り返る。

 まん丸な目を覗き込ませてきたのは、システム部の西山智乃だ。

 智乃は以前業務で一緒になった際に気が合ったこともあり、朝子のことを姉のように慕ってくれている後輩社員だった。


「い、いや。何か良いことっていうか……」

「最近、仕事中の朝子さんの顔つきが、生き生きしてるなって思ってたんですよぉ」

「え? そう?」

 朝子はそこまで言って、ふと最近の自分の生活を振り返る。

 確かにあの男装メイクをした日以来、朝子の中で何かが変わったのは事実だ。


 あの日、須藤と話した後会場に戻った朝子は、立派に理想の王子様を演じてみせた。

 そして皆のうっとりとする顔を見ながら、次第に自分の中に新しい何かが芽生えるのを感じていたのだ。

 そんなことを思っていると、智乃がくりくりの瞳を朝子の前に覗き込ませる。

「朝子さんって、今までもすごくお綺麗でカッコ良かったんですけど、さらに洗練されたというかぁ」

「もう智乃ちゃん、恥ずかしいってば」

 朝子は頬を赤く染めると、持っている資料で智乃の腕を軽くつついた。
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