私の理想の王子様
 確かにあの日以降、仕事だけでなく物事を前向きに捉えられるようになった気はする。

 生活に張りが出たし、それに加え仕事への向き合い方が変わった。

 入社五年も過ぎると仕事にも慣れが出て、ルーティン業務に味気なさを感じていたのに、最近は業務にも積極的に関わり、新しい提案も出したりするようになっていた。

 正直、生活スタイルは何ら変わりはない。

 今だって平日は家と会社の往復しかしていないし、唯一の楽しみは漫画アプリで少女漫画を読むことだ。

 でもあの日、普段の自分ではない“朝哉”を演じるたことで得られた高揚感や自信は、確実に本来の朝子も変えたのだ。


「あっ、その顔は! やっぱり何か良いことあったんですね!」

 鋭く顔を覗き込ませてくる智乃に、朝子は「しいて言えば……」と声を潜めた。

「理想の王子様を……見つけたかも?」

 やや語尾を上げる朝子の声に、智乃は一瞬驚いたように制止した後、「きゃー」と悲鳴を上げる。

「理想の王子様!? 何ですか、それ!!」

 興奮してさらにずずいと身を寄せる智乃に、朝子は慌てて口元に「しーっ」と手を当てる。

 それでも智乃は朝子に飛びかからんばかりに身を乗り出した。
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