私の理想の王子様

王子様のたしなみ

 夕方になり皆のアルコールが回ってきた頃、それぞれのテントにオレンジ色のランプが、いくつも灯りだした。

 点々と続くそれはまるでイルミネーションのようで、見ているだけでも楽しい気持ちになってくる。

 朝子はサッと辺りを見まわし、ミチルが離れたところで誰かと話しているのを確認すると、トイレへ行くためにそっと席を立った。


 この異業種交流会のバーベキューはかなり自由度が高いようで、さっきから参加者の入れ替わりも激しい。

 初め十五名ほどだった参加者も、夕方になり日が傾き出した頃には三十名近くまで増えていたから、朝子が席を外しても気がつく人はいないだろう。

 それでも念のため、二ブロック程離れたところのトイレへと向かう。

 無事に誰にも会わずにすんだ朝子は、少し公園の中を散策してみることにした。


「あぁ、楽しい」

 公園内を歩きながら、ふいに言葉が口をついて出てくる。

 やはりこんなに充実した気持ちになれるのは、男装メイクで朝哉になっているからだと思う。

 「朝哉さん」とうっとりした表情で呼ばれるたび、朝子は自分が王子様になっているのだと心が満たされた。

 そして皆の喜ぶ顔が見たくて、朝子も理想の王子様になりきるのだ。
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