私の理想の王子様
 そのまま遊歩道の奥に朝子を連れて行った須藤は、紅葉した桜の木に朝子の背中を押しつけた。

「ちょ、ちょっと、須藤さん……?」

 慌てたように顔を上げた朝子の目と鼻の先に、須藤の整った顔が迫る。

 須藤は朝子の肩をぐっとおさえた手と反対の手を伸ばすと、朝子の顎先をくいっと上に向かせた。

 その瞬間、目深に被った朝子の黒いキャップが外れて地面に落ちる。


「君が言う理想の王子様って、なに?」

「え……」

「前に言ってたみたいに、恋愛うんぬんは抜きにした、みんなの王子様?」

 須藤のやけにまっすぐな瞳は、朝子の心を動揺させる。

「そ、それは……」

 朝子が声を漏らした時、須藤は肩にかけた手に力を込めると、さらにぐっと顔を寄せた。


「でも君は現実に目の前にいるじゃない。いつか君に真剣に恋をして、恋愛関係を迫る人が出てきたら、君はどうするの? それでもみんなの王子様として接するの?」

 須藤の言葉に朝子の目線が大きく揺れる。

 須藤は軽く眉を上げると、さらに朝子に顔を近づけた。

 もう須藤の唇は、あと数ミリで朝子の唇を捉えてしまう。

(どうしたらいいの……)

 頭は必死に考えようとするが、それに反してドキドキと鼓動は高まっていく。
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