私の理想の王子様
 何も抵抗することができない朝子は、今の自分が朝哉であることすら考えられなくなっていた。

(あぁもうダメ……)

 朝子がそう思いながら目をぎゅっと閉じた時、ふっと朝子の肩を押さえる須藤の手から力が抜ける。

「冗談だよ、朝哉クン」

 朝子がはっと目を開くと、須藤はくすくすと肩を揺らしている。

 須藤は地面に落ちた朝子のキャップを取り上げると、呆然とする朝子の手のひらにそれを乗せた。


「驚かせてごめんね。でもこれだけは覚えておいて」

「え……?」

「君が思っている以上に、人は欲深いよ。それは、俺も含めてね」

 須藤はそっと口元を引き上げると、呆然とする朝子にくるりと背を向ける。

 しばらくして歩き出していた須藤は、足を止めると再び朝子を振り返った。

「それとね、俺は君に興味がある。朝哉クンにね」

 須藤は「じゃあね」と軽く片手を上げると、再び芝生へと向かって歩いていった。

「どういう意味……?」

 朝子は訳がわからないまま、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
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