私の理想の王子様
 綺麗に着飾って、色っぽい眼差しで須藤を見つめることなんて、到底今の朝子にはできない。

(なんでこんなにも、胸がざわつくの……?)

 二人の様子を見ていられなくなった朝子がサッと目線を逸らした時、朝子の腕を引いていたミチルがパッと笑顔を覗き込ませた。

「朝哉さん、こっちがバルコニーなんですよ」

 ミチルの明るい声に、朝子ははっと顔を上げる。

(そうよ。今、私は朝哉なんだから)

 ミチルが扉を押し開けると、勢いよくビル風が舞い込み、キーンと冷えた風が頬にあたった。

 驚くほどの寒さだが、逆に朝子の頭は一気に冴えてくる。

 朝子はにっこりと王子様の笑みを浮かべると、ミチルの後に続いてバルコニーに立った。


 バルコニーにはいくつか席も設けられているが、今は寒いからか誰も座っていない。

 それでも展望台のようになっている場所には、イルミネーションも施されていて、何組かカップルが肩を寄せ合っているのが見えた。

「ロマンチックですね」

 ミチルがやや頬をピンクに染めながら、恥じらうようにうつむく。

 はたから見れば、自分たちもいいムードの二人なのだろう。

 でもそれ以降、思いつめたように朝子をじっと見つめるミチルに、朝子の心の中は次第に不安が押し寄せてくる。
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