私の理想の王子様
 するとしばらくして、ミチルが朝子の不安をさらに後押しするように、うるうるとした瞳を上げた。

「あの、朝哉さん」

「はい……」

「私……朝哉さんのことがすごく気になるんです」

「気になる……?」

「はい。一日中、ずっと朝哉さんのことを考えちゃうんです……。私、朝哉さんのことが……」

 恥じらうように「きゃ」と両手で顔を隠すミチルに、朝子の心臓がドクンと鳴る。

 朝子は息を吸うと、天を仰ぐように顔を上に向けた。


『なんか気になるーって。あれってもう、好きってことですからね!』

 カフェで聞いた智乃の言葉が、痛いくらいに朝子の脳内を突き刺した。

(やっぱりミチルさんは、朝哉に恋してる……。朝哉の中身は、朝子なのに……)

 朝子は自分が理想の王子様として振舞うことで、みんなに幸せになって欲しかっただけだ。

 でもそれは結果として、ミチルの心をいたずらに惑わして、騙すことになってしまった。


(でも、ここで本当のことなんて言えない……)

 何も言えない朝子は、それ以降口を閉ざしてしまう。

 ミチルはしばらく首を傾げていたが、次第に瞳に涙を浮かばせた。

 きっと朝子がただ立ち尽くしているから、その先の言葉を続けられなくなったのだろう。

(どうしたらいいの……)

 何かフォローしなければと思うのに、何も言葉がでてこない。
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