私の理想の王子様
 するとその時、テラスの扉が開き「あー、いたいた」という柔らかい声が聞こえてきた。

「ミチルちゃん、幹事のみんなが探してるよ」

 そう声をかけてきたのは須藤だ。

 ミチルは須藤の声に弾かれたように顔を上げると、「はい!」と勢いよく返事をする。

「朝哉さん、じゃあまた後で」

 ミチルはぺこりと大きく朝子に頭を下げると、潤んだ瞳を隠すように、走って室内へと戻って行った。

 パタンと音を立ててバルコニーの扉が閉まる。

 駆け込んだ室内で目尻の涙を拭いながら、知り合いの側に寄るミチルの背中を眺めていた朝子は、しばらくしてはぁと小さく息をつくと、うなだれたように手すりに手をかけた。

 すると須藤が朝子の隣に立つ。


「どうしたの? いつもの王子様らしくないね」

 須藤は手すりに背中をあずけると、身体を反らせて、悪戯っぽい笑顔を覗き込ませる。

 須藤の顔が間近に迫り、朝子は心臓をドキッとさせながら、慌てて顔を反対側へ背けた。

「須藤さんの言う通りだったかもしれません」

 しばらくして、朝子はドギマギとしながら口を開く。

「どういうこと?」

 須藤は不思議そうに首を傾げている。

 朝子は顔を上げると、目の前に広がる夜景の、一つ一つの揺れる光を見つめた。
< 51 / 147 >

この作品をシェア

pagetop