私の理想の王子様
「僕はみんなの理想の王子様になりたかった。でもそれは結局、その気もないのに、いたずらに人の心を惑わせただけなのかも知れません」

 朝子の言葉に、須藤は「ふーん」と感情の見えない声を出す。

 朝子はここを駆け出して行ったミチルの顔を思い出して、小さく息をついた。

 ミチルの朝哉への恋心は本物だろう。

 朝子が演じる王子様に、本気で恋をしてしまったのだ。

 自分だってこうして須藤の隣にいれば胸がドキドキとしてくるのに、ミチルは同じような気持ちを朝哉に対して持っているのだ。
朝子の胸がズキズキと痛む。

 今の朝子を包み込んでいるのは、罪悪感なのだろうか。

 少なくとも、男装メイクをして、皆にうっとりと見つめられた時の高揚感は微塵も感じない。

 冷たい風は朝子を責めるように、何度も肌を突き刺した。


「ねぇ、朝哉クン」

 すると須藤が静かに口を開く。

 朝子が振り返ると、須藤はいつになく真剣な眼差しを朝子に向けた。

「一度、本当の君に戻ってみたら?」

「え……?」

 須藤の言葉に、朝子は息を飲んで隣を見つめる。

「みんなの王子様じゃなく、本当の君に戻って向き合うんだよ。そうすれば、今君を覆っている感情から先の道が開けると思うよ」

 真っすぐな瞳を向ける須藤に、朝子は目線を泳がせる。
< 52 / 147 >

この作品をシェア

pagetop