私の理想の王子様
 思わずめまいがしてくる。

 ただでさえ勝手に写真を投稿されたのに、個人が特定できるようなことを平気でコメントする人がいるのだと、嫌悪感すら抱いた。

(でも元はと言えば、自分でまいた種だ……)

 異業種交流会ではみんなが写真を撮り合っていた。

 今後、その時のものがSNS上に出てくる可能性はいくらでもあるだろうし、そこからいつ朝子本人と結びつくかもわからないだろう。


 再びめまいに襲われた朝子は、ふらふらと壁にもたれかかる。

「朝子さん! 大丈夫ですか!?」

 智乃が慌てて朝子の肩に手を添えた。

「びっくりだよね」

 朝子はもう一度深く息をつくと、小さく笑いながら顔を上げた。

「ノベルティを届けた日にね、たまたま間宮さんに男装メイクをしてもらったの。それがすごく楽しくて。新しい世界が開けたみたいだった。だからね、自分でも男装メイクをして出かけるようになったんだよね」

「そうだったんですね。あまりにカッコ良くてびっくりしました」

 智乃の返事に朝子は小さく肩をすくめる。


「私ね、みんなの理想の王子様になりたかったの。漫画から飛び出して来たみたいな王子様」

「あ、もしかして、前に朝子さんが言ってた理想の王子様を見つけたって話は……」

「そう。自分のことなんだよね。バカみたいでしょう? 自分が理想の王子様になることで、みんなに喜んで欲しいなんて、私の奢りだったんだよ」

 朝子は自嘲するように肩を揺らす。
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