私の理想の王子様
「私ずっと憧れだったんです」

 須藤の温もりに慣れて来た頃、朝子は正面を向いたまま小さく口を開く。

「こうやって、後ろから抱きしめられること」

 くすりと朝子が肩を揺らすと、須藤は抱きしめる腕にキュッと力を込めながら「知ってる」と耳元でささやいた。

「え? どうして……?」

 朝子は首を傾げると、バルコニーで須藤とキスした日のことを思い出した。

『君はこういうキスがいいんでしょ?』

 確か須藤は、キスしながらそう言っていた。

 考えればあの時も、今と同じようなシチュエーションだったような気がする。


 すると須藤は、にんまりとほほ笑みながら、朝子の顎先に手をかけた。

「だって、あの漫画のシーンもこうだったじゃない?」

「え……?」

 くすくすと肩を揺らす須藤に、朝子はみるみる顔を真っ赤にする。

 つまり須藤は、あの電車の中で朝子の画面に大写しになった濃厚キッスを見ていたということだ。

「や、や、やっぱり……見てたんですね。スマートフォンの画面……」

「そりゃあ、当然じゃない」

「当然!?」

 思わず声を上げる朝子に、須藤はにっこりとほほ笑んだ顔を覗き込ませる。

「毎朝、幸せそうに何を見てるのかなって気になってた女の子が、そのスマートフォンを落としたんだよ? 見るに決まってるよね」

 須藤はもうあははと声を上げて笑い出している。
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