私の理想の王子様
 横山が誰の事を言っているのか、はたまた誰かと勘違いしているのか、全く訳がわからない。

 社会人になってから引っ越したこのマンションに、朝子が男性を連れてきたことはないのだ。


「ひ、人違いじゃないですか? だって私の彼は……」

「違わないわよぉ。だって田野倉さんの部屋の鍵を持ってたもの」

 横山は朝子の声を遮ると、腰に手を当てて自信満々にうなずいている。

(鍵を持ってたって、どういうこと……!?)

 朝子の頭はプチパニックだ。

 横では須藤がじっとりとした目で朝子を見ている。


(ど、どういうことなの!?)

 思わず叫び出しそうになった時、朝子ははっと目を開く。

 そう言えば、異業種交流会の忘年会の日、エントランスの前を通ったら管理人室に明かりがついていたのを思い出したのだ。

 あの時は、横山さんが来てるのだなと、気にもしなかったが、もしかしたらその時に見られていたのではないだろうか。

(つまり……朝哉の姿を……)

 朝子は慌てて顔を上げると、横山に大袈裟に手を振った。


「あの人は彼じゃないんです。もう忘れてください」

 朝子は早口でそう言い切ると、須藤の腕を引っ張ってエレベーターに乗り込む。

「えぇ? そうなの? 変ねぇ」

 不満げな横山の声を聞きながら、朝子は慌ててエレベーターの閉じるボタンを押した。
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