私の理想の王子様
 やはりどこで誰が見ているのかわからない。

(普段の生活も気をつけよう……)

 はぁと安堵の息を漏らした朝子は、次の瞬間、後ろから鋭い視線を感じてはっと背筋を正す。

 恐る恐る振り返った朝子の前で、須藤は口を尖らせると大きく腕を組んだ。


「朝子」

 須藤は完全に疑いの視線を朝子に向けている。

「ち、違うんです! 横山さんが見たのは朝哉で! 瑛太さん、誤解なんです……」

 朝子の言葉が言い終わらない内に、朝子は須藤にぎゅっと抱きしめられる。

 須藤は朝子の首元に顔をうずめると、しばらくじっとしていたが、急にくすくすと肩を揺らすと、あははと声を上げて笑い出した。


「瑛太さん?」

 朝子が不思議そうに顔を上げると、須藤は笑いすぎたのか目尻の涙を拭っている。

「もうあの人の発言、下手したら修羅場ものだからね」

 須藤の声に朝子もぷっと吹き出した。

 二人はあははと声を上げると、抱き合ったままエレベーターを降りたのだ。


 朝子が思い出し笑いをするように会社のフロアを歩いていると、「朝子ちゃん、お疲れ」と誰かに呼び止められる。

 首を傾げながら顔を上げた朝子は、会議室から出てきたのか、こちらに向かって手を振る由美の姿を見つけた。
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