私の理想の王子様
「こんな話、急に言われて戸惑うのは当然よ。でも、今の率直な気持ちを聞かせてくれないかしら」

 由美の言葉に朝子は戸惑ったように視線を泳がせる。

 正直、こんな話が出てくるなんて思いもよらなかった。

 気持ちを聞かせて欲しいと言われても、頭が混乱してうまく考えることができない。


 きっと朝哉として人前に立つということは、軽い気持ちで理想の王子様を演じていた時とは全く違うだろう。

 BAの研修も受けることになるだろうし、朝子と朝哉の二人の顔を世の中に見せることになる。

 そんな朝子を、須藤が受け入れてくれるのかもわからない。

 それに、朝子の心の奥には、男装メイクで人を騙してしまったという罪悪感がまだ残っているのだ。


「……できません」

 咄嗟に出た朝子の言葉に、隣に立っていた須藤と由美が息を吸うのがわかる。

「朝子?」

 須藤が朝子の肩に手をかけると、顔を覗かせた。

 それでも朝子は頑なに下を向く。

「私には、できません」

 朝子はもう一度そう言うと、由美に頭を下げてその場を去ったのだ。
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