私の理想の王子様
(私はもう男装メイクはしないって決めたんだから……)

 朝子は言葉を飲み込むようにパッと顔を上げると「そろそろ食事にしましょう」と無理やり口元を引き上げる。

「朝子?」

 須藤は何か言いかけたが、口を閉じると静かにうなずいた。


 それからは、いつもの休日のように二人で食事の準備をする。

 デパ地下で買ってきたお惣菜をお皿に盛りつけ、簡単なサラダを作り、チーズや生ハムを並べた。

 リビングのローテーブルに食事を並べ、ワイングラスに二人で選んだ赤ワインを注ぎ乾杯する。

 他愛もない会話をしながら、朝子はそっと須藤の横顔を眺めた。


 きっと須藤は、朝子があの後何を言おうとしたのかわかっていたと思う。

 それでもそれ以上は何も聞かないようにしてくれたのだ。

 須藤に本心を言えば、きっと応援してくれるだろう。

 でも、まだ朝子には再び男装メイクをする勇気がなかった。

(今は瑛太さんとの時間を大切にしたい)

 朝子はモヤモヤと湧く気持ちを振り払うように首を振ると、再び食事を口に運んだ。
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