ブーケの行方と、あの日の片思い

第二十章:解散、そして期待

披露宴会場を後にした優花は、恵理と淳子と共に最寄り駅へ向かった。
途中のデパートでトイレを借り、三人は二次会に向けて着替えることにした。

ネイビーの上品なフォーマルドレスから、柔らかなアイボリーのニットワンピースへ。
鏡の前に立つと、優花の表情は、さっきまでよりずっと軽やかに見えた。

「ふー、やっと肩の力が抜けたね」
恵理がため息をつく。「二次会って、ほんと気が楽でいいわ。優花も、宏樹とゆっくり話せるといいね」

「ありがとう」
優花は微笑んだが、その胸の奥では、密かな決意が静かに火を灯していた。

駅前で三人はいったん解散した。
恵理は買い物へ、淳子は早めに会場近くのカフェへ。
優花は、二次会が開くまでの少しの時間を、一人で過ごすことにした。

駅前のカフェに入り、窓際の席に座る。
人々が行き交う雑踏を眺めながら、両手で温めたカップの熱が、じんわりと指先に伝わる。

(いよいよ、だ。)

披露宴での出来事が次々と思い返される。
偶然の接触。
ささやかな気遣いへの、宏樹からの「ありがとう」。
二人きりの会話。
メッセージカードを読んだ時の、優しいまなざし。

宏樹は、優花を「昔と変わらない優しい友人」として見ている。
その位置は、恋愛の入り口ではないけれど、確かな信頼の上に築かれていた。

(この“友人”という位置こそが、私のスタートになる。)

優花は、宏樹の変化を思い返した。
仕事に没頭し、趣味を手放し、どこか疲れた影を落とす彼。
その背負うものの重さを、披露宴の中で垣間見た。

もし二次会で、彼がふと本音を漏らす瞬間があったなら——
優花は、その言葉を受け止められる大人でいたかった。

バッグの中に忍ばせていた、小さなメモ帳を取り出す。
仕事で使うためのものだが、もし宏樹が新しい趣味や興味の話をしたら、すぐ記しておけるように。

それは、彼の言葉を誠実に受け止めるための、優花なりの覚悟だった。

時計を見る。
開場まで、あと三十分。

緊張はあったが、それを包み込むように、静かな期待が膨らんでいく。
五年間、優花の心の中で遠い存在だった彼が、
このあと、同じテーブルで、隣の席に座るかもしれない。

優花はコーヒーを飲み干し、そっと立ち上がった。

(行ってきます、あの頃の私。)

過去の自分に静かに別れを告げ、
希望と決意を胸に、優花は二次会へと続く夜の街を歩き出した。
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