ブーケの行方と、あの日の片思い
第二十一章:ドレスから普段着へ
駅前のカフェを出た優花は、歩きながらそっと自分の服装を見下ろした。
披露宴で着ていたネイビーのロングドレスは、今はバッグの中に小さく折り畳まれている。
代わりに身につけているのは、柔らかなアイボリーのニットワンピース。
足元も、慣れないヒールから歩きやすいパンプスへ——。
その軽やかな装いは、優花自身の気持ちまでふっとほどいてくれるようだった。
(これで、ようやく自分らしくいられる。)
披露宴のドレスは“参列者としての役割”をまとわせた。
宏樹の前でも、緊張して背筋を張り続けなければいけなかった。
けれど今の服装は違う。
自然体の自分——友人としての相沢優花を、そのまま表現できる。
二次会の会場は、大通りから一本入った路地にひっそりと佇む小さなバーだった。
控えめな外観とは裏腹に、中からは楽しげな音楽と人々の声が溢れ出ている。
中へ入ると、受付には高校時代の友人たちが立っていた。
「優花、いらっしゃい! 美咲たち、まだ着替え終わってないから、先に飲んでてね!」
優花は笑顔で頷き、会場内へ視線を向ける。
照明は落とされ、カジュアルな洋楽が流れ、披露宴とはまったく別の空気が広がっていた。
学生時代の友人、会社の同僚、さまざまな人がテーブルを囲んでいる。
宏樹は——。
優花の目が、その姿を捉えたのは、バーカウンターの近くだった。
黒のシンプルなジャケット、濃いデニム。
スーツの堅さを脱いだ宏樹は、落ち着いた大人の男性そのもので、
肩の力が抜けたような柔らかさがにじんでいた。
(…こんな雰囲気も似合うんだ。)
友人グループの輪の中で談笑する彼を見て、優花の胸は小さく跳ねた。
優花が近づくと、恵理がすぐに気づいて手を振る。
「優花! やっと来た! そのワンピース、すっごく似合ってる。優花らしいよ」
「ありがとう。私も、二次会は早く着替えたくて」
輪の中に自然と加わると、談笑していた宏樹がふと話を中断し、こちらを向いた。
「着替え終わったんだね、相沢。うん…そっちの方が、雰囲気に合ってる」
披露宴の時よりも、少し無防備で、少し砕けた声音。
その言い方は、まるで—
(フォーマルな私より、この“普段の私”を好ましく思ってくれているみたい。)
胸が熱くなったが、優花は落ち着いて微笑んだ。
「宏樹もですね。スーツ姿も素敵でしたけど…今の方が、自然でいいと思います」
宏樹は照れたように目を細め、優花の隣の席を軽く指さした。
「ここ、ちょうど空いたところ。飲み物、何か頼む?」
そんなふうに席を示されるのは、披露宴よりもずっと自然で、
“友人としての距離”が同じ高さになったような感覚だった。
優花は、緊張を押し隠しながら、その隣に腰を下ろす。
フォーマルからカジュアルへの着替えは、
単に服装を変えるだけではなかった。
優花と宏樹の関係が、
「憧れの彼」から
「隣に座って話せる友人」へと
静かに、確実に切り替わっていく儀式——。
その始まりを告げる瞬間だった。
披露宴で着ていたネイビーのロングドレスは、今はバッグの中に小さく折り畳まれている。
代わりに身につけているのは、柔らかなアイボリーのニットワンピース。
足元も、慣れないヒールから歩きやすいパンプスへ——。
その軽やかな装いは、優花自身の気持ちまでふっとほどいてくれるようだった。
(これで、ようやく自分らしくいられる。)
披露宴のドレスは“参列者としての役割”をまとわせた。
宏樹の前でも、緊張して背筋を張り続けなければいけなかった。
けれど今の服装は違う。
自然体の自分——友人としての相沢優花を、そのまま表現できる。
二次会の会場は、大通りから一本入った路地にひっそりと佇む小さなバーだった。
控えめな外観とは裏腹に、中からは楽しげな音楽と人々の声が溢れ出ている。
中へ入ると、受付には高校時代の友人たちが立っていた。
「優花、いらっしゃい! 美咲たち、まだ着替え終わってないから、先に飲んでてね!」
優花は笑顔で頷き、会場内へ視線を向ける。
照明は落とされ、カジュアルな洋楽が流れ、披露宴とはまったく別の空気が広がっていた。
学生時代の友人、会社の同僚、さまざまな人がテーブルを囲んでいる。
宏樹は——。
優花の目が、その姿を捉えたのは、バーカウンターの近くだった。
黒のシンプルなジャケット、濃いデニム。
スーツの堅さを脱いだ宏樹は、落ち着いた大人の男性そのもので、
肩の力が抜けたような柔らかさがにじんでいた。
(…こんな雰囲気も似合うんだ。)
友人グループの輪の中で談笑する彼を見て、優花の胸は小さく跳ねた。
優花が近づくと、恵理がすぐに気づいて手を振る。
「優花! やっと来た! そのワンピース、すっごく似合ってる。優花らしいよ」
「ありがとう。私も、二次会は早く着替えたくて」
輪の中に自然と加わると、談笑していた宏樹がふと話を中断し、こちらを向いた。
「着替え終わったんだね、相沢。うん…そっちの方が、雰囲気に合ってる」
披露宴の時よりも、少し無防備で、少し砕けた声音。
その言い方は、まるで—
(フォーマルな私より、この“普段の私”を好ましく思ってくれているみたい。)
胸が熱くなったが、優花は落ち着いて微笑んだ。
「宏樹もですね。スーツ姿も素敵でしたけど…今の方が、自然でいいと思います」
宏樹は照れたように目を細め、優花の隣の席を軽く指さした。
「ここ、ちょうど空いたところ。飲み物、何か頼む?」
そんなふうに席を示されるのは、披露宴よりもずっと自然で、
“友人としての距離”が同じ高さになったような感覚だった。
優花は、緊張を押し隠しながら、その隣に腰を下ろす。
フォーマルからカジュアルへの着替えは、
単に服装を変えるだけではなかった。
優花と宏樹の関係が、
「憧れの彼」から
「隣に座って話せる友人」へと
静かに、確実に切り替わっていく儀式——。
その始まりを告げる瞬間だった。