ブーケの行方と、あの日の片思い

第三十一章:ビンゴゲームの終了と帰り道

ビンゴゲームは、怒涛のような熱狂のうちに幕を閉じた。
結局、宏樹が気にしていたヘッドフォンは、美咲の会社の同僚の手に渡り、会場から大きなどよめきが上がった。

「残念でしたね」と優花が笑いかけると、
宏樹は肩をすくめ、少しだけ悔しそうに目を細めて言った。

「まあ、運ってそういうもんだよな。でも——欲しいものは、運じゃなくて自分で手に入れたほうが嬉しいしね」

そう言って優しく笑う横顔に、優花の胸はまた静かに温まった。

「相沢は何か欲しい景品あった?」
「私は……特に。でも、宏樹と話せたことが、今日の一番の景品です」

少し照れながら言った言葉に、宏樹はふと動きを止め、
優花をまっすぐ見つめた。

「……そう言ってもらえると、すごく嬉しいよ」

その笑顔は、照れでも社交辞令でもなかった。
優花は、確かに心の奥の柔らかい部分に触れたような手応えを感じた。



やがて二次会は終わりを告げ、
新郎新婦の挨拶を合図に、会場は余韻を残しつつ解散へと向かった。

優花が恵理と淳子の元へ戻ると、恵理がにやにやと肘をつついてくる。

「優花、あの感じ……絶対なにかあったでしょ?」
「なにもないってば。ただ、いろいろ話しただけ……」

そう否定しながらも、胸の奥で何かが甘く鳴っていた。

出口へ向かう途中、
タクシー乗り場へ歩く男性陣の中に宏樹の姿を見つけた。

優花は気づかれまいと深呼吸し、勇気を振り絞って彼に近づく。

「宏樹、今日はありがとうございました。美咲たち、すごく幸せそうでしたね」

「うん……ほんとに。
 それに——相沢とゆっくり話せたの、すごく楽しかった。ありがとう」

健太が「宏樹、タクシー来たぞー!」と手を振って呼ぶ。

乗り込む前、宏樹は一瞬だけ足を止めた。
街灯の光が、彼の自信ある横顔をやわらかく照らす。

「また連絡するよ。
 ……夜景、撮りに行こう」

その声は、優花だけに届くような深さを帯びていた。

優花は言葉を失いそうになりながら、
それでもしっかりと頷いた。

「……はい。楽しみにしています」

車が走り去っていくテールランプが、夜のしじまに吸い込まれていく。
優花は、その光が見えなくなるまで、ただ静かに立っていた。



「さ、帰ろ。今度は三人でも飲もうよ、優花!」

恵理の声に我に返り、友人たちと駅へ歩き出す。
だが、優花の胸の奥は静かに熱を帯び続けていた。

「また連絡する」——それは、曖昧さのない、はっきりとした約束。
次は、二人きりで。
夜景を、隣で。」

優花が歩く夜道は、
まるで新しい物語へ続く、光の筋を描いているように見えた。

五年前、届かないと思っていた恋ではなく、
“今”の二人が向き合う未来への道。

優花は気づいていた。

(ここが——私と宏樹の、最初の“夜の交差点”。)

そして、もう迷わない。
その交差点の先へ、歩いていくと決めたのだ。
< 31 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop