ブーケの行方と、あの日の片思い

第三十章:景品と予感

ビンゴゲームが始まった。
司会者の弾む声とともに数字が次々と読み上げられ、会場は一気に熱を帯びる。

「最初の数字は……Bの12!」
「続いて……Oの68!」

歓声や笑い声、ざわめきが入り混じり、空気はお祭りのように賑やかだった。

だが――優花は、カードを手にしながらも、数字にはほとんど意識が向いていなかった。

(だって……今日の一番の“当たり”は、もう手に入れたから)

宏樹との親密な会話。
そして、個別の連絡先を交換できたこと。

それだけで、ビンゴの景品よりずっと価値がある。

隣を見ると、宏樹もまた、カードを眺めつつもどこか上の空で、司会者の冗談にくすりと笑ってウィスキーを傾けていた。

しかし――
景品リストが紹介された瞬間、彼の表情が変わった。

「豪華景品はこちら! ディズニーペアチケット、高級家電、そして目玉は……最新型の高性能ヘッドフォン!」

司会者がヘッドフォンを高く掲げると、優花の隣で宏樹の体が微かに動いた。

一瞬の、正直な反応。

「……宏樹、あれ欲しいんですか?」

思わず小声で尋ねると、
宏樹はすぐ優花を見て、少し照れたように頷いた。

「ああ。前から気になってたんだ。
 夜景を撮りに行く時、音楽を聴いて集中するんだけど……今使ってるやつ、すぐ電池切れになってさ。あれなら長時間保つ」

その言葉からは、
彼が仕事の喧騒から離れた“静かな時間”をいかに大切にしているかが、手に取るように伝わってきた。

(……彼、本当に欲しいんだ)

「じゃあ、頑張って当てましょうよ!」
優花は思わず身を乗り出した。

宏樹は苦笑しながら、軽く首を横に振る。

「いやいや。俺がゲームで当てるなんて柄じゃない。
 相沢が当てて、美咲にプレゼントしたほうが喜ばれるよ」

そう言いながらも、
優花には分かった。
宏樹は、あれを“心から”欲しがっている。

その事実が、胸の奥で静かに灯をともす。

(たとえ今日、特別な展開がなかったとしても……私は、彼の“好きなもの”を知っている)

それは、ただの趣味の情報ではなく、
優花だからこそ気づけた“彼の孤独の支え” だった。

そっとスマホを取り出し、
他人には絶対に見られたくない秘密のメモを一つ加える。

・宏樹が欲しいもの:高性能ヘッドフォン(夜景撮影のとき用)

指先で保存ボタンを押した瞬間、
胸の奥で何かがそっと動いた。

(もし、宏樹が求めている「心の平穏」を私が与えられるなら……
 私はもう、遠くから見ているだけの私じゃない)

読み上げられる数字が会場に弾むように響く。

「Gの49!」
「Iの22!」

歓声と落胆が交錯する中、
優花はカードを眺めるふりをしながら、心の決意を静かに固めていた。

二次会はクライマックスへ向かい、
会場はますます賑やかさを増していく。

——その裏で。

優花と宏樹の関係は、
静かに、しかし確実に次の段階へと進んでいた。
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