ブーケの行方と、あの日の片思い
第四十章:キーホルダーと次の計画
自宅に戻った優花は、胸の高鳴りがまだ収まらないまま、リビングの明かりをつけた。
コートを脱ぎ、まず手に取ったのは──宏樹から渡された、あの夜景モチーフのキーホルダーだった。
ビルのシルエットが小さく象られただけの、シンプルなのに不思議な存在感のあるデザイン。
それは、今日二人で共有した「夜景」という時間そのもののようであり、彼の口にした“心の平穏”という言葉の象徴のようにも感じられた。
優花は、バッグにつけるのではなく、部屋で一番よく目に入る、小さなデスクの上にそっと飾った。
朝起きるたび、そして帰宅するたびに、この夜の記憶がよみがえるように。
一息ついてスマートフォンを確認すると、やはり通知が光っていた。
沢村 宏樹
無事に着きましたか?
今日は本当にありがとう。君と話せて、仕事のこともすごくリセットできた。
次の撮影スポットも、もう考えてる。またすぐに連絡するね。
キーホルダー、大切にしてくれたら嬉しい。
おやすみ。
読み終えた途端、優花の胸の奥が、じんわりと熱を帯びた。
そこには、社交辞令のかけらもない。
彼は“優花といる時間”を、確かに癒やしとして受け取ってくれている──そんな揺るぎない実感があった。
優花は感謝の返信を送ったが、ベッドに入っても興奮は簡単には鎮まらなかった。
(次に……私は彼に何ができるんだろう?)
宏樹が抱えていた仕事の重圧。
叩きつけられる資料、理不尽な要求、止まらない責任感。
彼が必要としているのは、誰かに依存したり甘えたりではなく──静かに隣にいて、心を整えるための“呼吸の時間”なのだ。
そして、優花の脳裏には、二次会でのあの光景が浮かんだ。
──最新型の高性能ヘッドフォン。
夜景撮影に“音の静けさ”は欠かせない。
あれは、彼がぶつ切りの心をもう一度整えるための、大切な道具なのだ。
デスクに置いたメモ帳を開く。
・欲しいもの:最新型の高性能ヘッドフォン(夜景撮影時の音楽用)
宏樹は、人に頼ることが苦手だ。
だからこそ、優花からのプレゼントに負担を感じるかもしれない。
それでも──。
(これはただの贈り物じゃない。
彼が前へ進むための、小さな灯り。私からの……秘密のブーケ。)
そう思った瞬間、迷いは消えた。
スマートフォンを手に取り、優花は彼が見つめていた機種を検索する。
次に会うとき、そっと渡せるように。
“あなたは一人じゃない”と、言葉にしなくても伝わるように。
デスクの上で静かに光るキーホルダーに目をやりながら、優花は満ち足りた気持ちで目を閉じた。
五年続いた片想いは、もう過去の物語だ。
今、優花と宏樹は──
新しい恋の夜景を、二人で撮り始めたばかり。
コートを脱ぎ、まず手に取ったのは──宏樹から渡された、あの夜景モチーフのキーホルダーだった。
ビルのシルエットが小さく象られただけの、シンプルなのに不思議な存在感のあるデザイン。
それは、今日二人で共有した「夜景」という時間そのもののようであり、彼の口にした“心の平穏”という言葉の象徴のようにも感じられた。
優花は、バッグにつけるのではなく、部屋で一番よく目に入る、小さなデスクの上にそっと飾った。
朝起きるたび、そして帰宅するたびに、この夜の記憶がよみがえるように。
一息ついてスマートフォンを確認すると、やはり通知が光っていた。
沢村 宏樹
無事に着きましたか?
今日は本当にありがとう。君と話せて、仕事のこともすごくリセットできた。
次の撮影スポットも、もう考えてる。またすぐに連絡するね。
キーホルダー、大切にしてくれたら嬉しい。
おやすみ。
読み終えた途端、優花の胸の奥が、じんわりと熱を帯びた。
そこには、社交辞令のかけらもない。
彼は“優花といる時間”を、確かに癒やしとして受け取ってくれている──そんな揺るぎない実感があった。
優花は感謝の返信を送ったが、ベッドに入っても興奮は簡単には鎮まらなかった。
(次に……私は彼に何ができるんだろう?)
宏樹が抱えていた仕事の重圧。
叩きつけられる資料、理不尽な要求、止まらない責任感。
彼が必要としているのは、誰かに依存したり甘えたりではなく──静かに隣にいて、心を整えるための“呼吸の時間”なのだ。
そして、優花の脳裏には、二次会でのあの光景が浮かんだ。
──最新型の高性能ヘッドフォン。
夜景撮影に“音の静けさ”は欠かせない。
あれは、彼がぶつ切りの心をもう一度整えるための、大切な道具なのだ。
デスクに置いたメモ帳を開く。
・欲しいもの:最新型の高性能ヘッドフォン(夜景撮影時の音楽用)
宏樹は、人に頼ることが苦手だ。
だからこそ、優花からのプレゼントに負担を感じるかもしれない。
それでも──。
(これはただの贈り物じゃない。
彼が前へ進むための、小さな灯り。私からの……秘密のブーケ。)
そう思った瞬間、迷いは消えた。
スマートフォンを手に取り、優花は彼が見つめていた機種を検索する。
次に会うとき、そっと渡せるように。
“あなたは一人じゃない”と、言葉にしなくても伝わるように。
デスクの上で静かに光るキーホルダーに目をやりながら、優花は満ち足りた気持ちで目を閉じた。
五年続いた片想いは、もう過去の物語だ。
今、優花と宏樹は──
新しい恋の夜景を、二人で撮り始めたばかり。