新堂さんと恋の糸
 「そういうことなら、進めてもいい」

 途端に目を輝かせて身を乗り出す様子はますます犬っぽい。散歩に行くと言われて喜んでいる犬のような、感情がストレートに出過ぎている。普段相手にしているクライアントも、これくらい分かりやすいとやりやすいんだが。

 「ただし条件がある」
 「条件ですか?」
 「うちの事務所で働け。そこでの働きぶりを見て取材を受けるか決める」

 事務所のやり方や細かいルールを守れる人間なのか、きちんと現場を知る気があるのかどうか見定める。それで諦めるのならそれまでで、他を当たってくれればいい。

 「無理なら今ここで断れ。この話もここまでだ」

 それは彼女にも当てはまる。『憧れ』と違ったと思うならその時点でやめていい。お互いの時間を無駄にしないためだ。

 「分かりました……やります」
 「やります?」
 「……働かせて、いただきます」

 そうと決まればまずはどこを片付けてもらおうか。
 そろそろ足の踏み場もない作業スペースをどうにかしたいし、今の事務所に引っ越してから数年年分溜まったカタログもどうにかしたい。
 そんなことを考えながら連絡先を交換していると「雑用……?」と困惑した表情をしたのが見えた。

 前言撤回される前に手早く彼女の連絡先を登録すると、俺はそれに気づかないふりをして笑顔を作ったのだった。

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