新堂さんと恋の糸
 ◇◇◇◇

 翌週の月曜日。
 会議が一区切りついたタイミングでコーヒーを淹れて休憩しようと戻る途中、話し声が聞こえてきた。

 「ううん、よくやるなぁと思って見てただけ。だってそれ全部無償でしょ?」

 玲央の声だ。時間を見ると十五時半過ぎだから、ちょうど櫻井が来ているところなのだろう。

 「この部屋酷い荒れっぷりだったのに……すごいね、そこまでして取材したいんだ?」

 玲央は普段俺以外と会話をしないから、悪気なくズバズバと言いたいことを口にするところがある。けれどそんな心配をよそに、櫻井は「憧れのデザイナーの事務所で働けるのは楽しい」などと能天気なことを言っている。

 「新堂さんに必死にまとわりついてるっていうか食い下がってて。ねえ、ポメ子さんって呼んでもいい?」
 「絶対嫌です、その呼び方はやめてください……!」

 (これは完全に玲央に遊ばれてるな)

 初対面でここまで気を許すように話すところは初めて見たような気がする。けれどポメラニアン……まぁ確かに、初めて会ったときから感情の出方や反応が犬っぽいと思ってはいたけれど。
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