新堂さんと恋の糸
 手紙でも、初めて会ったときも言っていた「自分にはセンスがなかったから」という言い方がずっと気になっていた。

 『絵もロクに描けんくせに、偉そうなこと言うな』

 でも、さっきの玲央との話を聞いていて分かった。
 そんなふうに言い捨てられて、そのまま自分の中に刺さったままになっている。ゆえに、自分の画力に対してコンプレックスがある――だとしたら、それこそもったいないとも思う。

 「デザインはそこにある問題や課題を解決するのが目的なんだ。一番早いアウトプットの手段が絵なだけであって、絵を描くこと自体が目的じゃない」
 「でも、上手くないと伝わらないですよね?」
 「俺はこの下手な絵でも伝わったぞ」
 「それは絵を見ながら説明したからで……あっ、」

 俺の意図が伝わったのか櫻井は声を上げた。

 今の櫻井は雑誌の編集者であってデザイナーを目指しているわけではない。
 それでも彼女の発想や取り組み方はそれこそセンスの一つで、それは強みでありきっと仕事にも生かされるはずだ。

 ―――だから、もっと自信を持て。

 「……ありがとうございます」
 「でもまぁ全然基礎がなってないから、勉強する余地はあるけどな?」
 「そうやって上げて落としてくるんですから……」

 さっき胸の奥まで出かかった言葉は、まだ飲み込んだままだった。
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