新堂さんと恋の糸
 つい最近まで比較的片付いていたそこは、また紙の山がテーブルを占領していた。
 個展前で、シュレッダーにかける暇もないのだろう。私は散らかった紙をデスクの中央に集めていく。トントンと揃えていると、電話を終えた新堂さんが戻ってきた。

 「新堂さん、これシュレッダーにかけておきましょうか?」

 少しでも忙しい新堂さんの役立ちたいなと思って、いつものように軽く申し出たつもりだった。

 「――待て」

 次の瞬間、伸びてきた手が、私の持っていた紙束をひったくるように奪い取った。そのあまりの勢いにびっくりしてしまって、私は呆気に取られて立ち尽くしてしまう。

 「あ……すみません勝手に」
 「いや、これは俺がやっておくから」

 ばつが悪そうに背中を向ける新堂さんに、私は少し気持ちが沈んでしまった。

 (こういうのも……きっと余計なこと、なんだよね)

 距離をとられている――そう感じるのは、きっと考えすぎだ。
 不用意に机の物に触るのは、編集者のやることじゃない。
『もう雑用係じゃないのにな』と新堂さんに言われたことが、今になってちくりと胸を刺す。

 オフィスに気まずい沈黙が落ちる。
 そのとき、テーブルに置いたスマートフォンの着信音が鳴った。こんなときに誰、と思いつつ出ないわけにいかない。画面を見ると、園田編集長の名前が表示されていた。

 「もしもし、櫻井です」
 「あぁよかった、櫻井さん、今大丈夫?」

 いつもより少し早口で、どこか切羽詰まった声だった。もしかして、また仕事のヘルプとかだろうか。

 「落ち着いて聞いてね」と前置きされて、嫌な予感がじわりと背筋をなぞった。

 「……原稿が……流出?」

 告げられた言葉の意味を飲み込むまでに、しばらく時間がかかった。
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